研究室紹介/研究室・ゼミナール運営方針

農業経営学研究室

 農業経営学研究室では、農業および農業に関連するビジネス、それらを取り巻く地域の経済、社会、資源、環境などをめぐる様々なマネジメントに関する問題について研究を行っています。マネジメントとは、目標の実現に向けて、戦略を策定し、組織を形成し、活動を効率的かつ効果的に遂行することであり、計画、組織化、命令、調整、統制の5つの機能から構成されています。これらの活動は、資源を調達する市場、製品やサービスを販売する市場、さらには政府によって形成される環境の中で実施される一方で、活動を行う組織内部において、自分以外の人を通して自分が実行したいことを進めてもらうという関係があります。したがって、マネジメントには環境マネジメントと組織マネジメントという領域があります。両者はしばしば矛盾しますが、このような両者の間の矛盾を克服してこそ、成長と安定がもたらされると考えられ、成長と安定のマネジメントという領域があります。
 研究のポイントは、いかにして社会・経済環境の変化に適応する戦略を策定し、戦略にふさわしい組織を計画・管理し、経済活動の持続的・安定的な成長を実現するかという点にあります。研究手法としては、経営学およびそれに関連する経済学の研究手法を用いながら、フィールドワークに基づいた研究とそれを土台にした理論的研究を進めています。研究対象は国内問題に限らず国際的な視野を持ち、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等の農業経営の国際比較や発展途上国の農村開発への貢献を意識した研究を行うとともに、実践性を重視した問題解決型のアプローチやケース・メソッドを意識した研究を行っています。

研究テーマ
    農業のビジネスマネジメント
  • 農業ビジネスの競争優位と持続可能性
  • 農産物のブランド化とマーケティング
  • 企業的農業経営の経営戦略とリスク・マネジメント
  • 農業法人における人的資源管理と人材育成
  • 企業の農業参入と農商工連携
  • 農業経営ナレッジの地域内・経営内継承
  • 途上国における農産物流通・加工ビジネス
    農業の地域・環境マネジメント
  • 農人口減少下の地域農業マネジメント
  • 地域農業のグランドデザインと経営組織形態
  • 地域のバイオマス利用の経済性と社会効果
  • 農村経済の多角化とクラスター形成による地域振興
  • 都市近郊地域の農家行動と農地保全
  • 中山間地域における地域資源管理と経営主体
  • 先進国の農業環境政策と農業経営の行動

農政学研究室

 近代国家の形成以来、農業は政策によって強く規定されてきた。資本主義国、開発途上国、旧社会主義国を問わずそうであった。それは何故だろうか? 一方、20世紀末のWTO体制の発足、食料・農業分野でのグローバリゼーションの本格的な進行により、State-assisted paradigmは大きく揺さぶられている。その帰結はどのようなものとなるだろうか?こうした問題を、歴史的視点を重視しつつ、社会経済全体の枠組みに位置づけたうえで解き明かそうとするのが農政学研究室のスタンスである。
 本研究室の特徴は、第1に、農村の現場の視点から政策を捉え返すことにある。政策の作用力が具体的な農村の現場でどのように実現されているのか、そこに問題があるとすればその原因は何かを明らかにすることで、政策に対して修正要求が可能となる。これは農村の社会経済構造の究明を意味するものでもある。本研究室には、センサスによる統計的な構造把握の中に現地実態を位置づける調査研究を積み重ねてきた伝統がある。
 第2の特徴は、現在発生している問題を、歴史的な文脈の中で位置づけ、問題が進化・発展を遂げてきた「軌道」を措定し、それを忠実に描く姿勢をとることにある。例えば政策と密接な関連を有する当該国家の性格ついては、封建制から資本制への移行、特に農村共同体の解体と存続の態様が、農地問題をはじめとする農村社会構造を大きく規定するという歴史的な視点を重視する。これは同一国内の地域分析についても同様で、自然的歴史的な初期条件の規定性を重視することでもある。
 第3に、「構造」と「歴史」という横糸と縦糸を織り合わせることで浮かび上がってくる、各国・各地域の個性に注目する視点である。これは分析対象の特殊性の認識に力点を置くものだが、その詳細な検討を通じて問題のあらわれ方の共通性・普遍性を析出することが可能になる。そして、以上のような問題把握を「農業・農村」という限定された領域で完結させることなく、社会経済全体の枠組みの中に位置づけを図る努力を行う。これは農業問題という小さな「窓」を通じて社会全体を広く認識しようとする試みである。
 本研究室の基本的な姿勢は「構造」と「歴史」という2つの異なる位相から分析対象の「個性」を「現場」で生起する問題の丹念な描写を通じて明らかにし、そのなかに普遍性を見出すというものである。そのうえで政策の評価をその展開過程の文脈に注目しつつ行うことを最終的な到達目標とする。 

研究テーマ

農業構造問題(センサス分析、集落営農の展開方向、企業参入の可能性、農地利用調整)
農地制度論(農地政策の展開過程、都市計画制度と農地、不在地主問題、農地中間管理機構)
農業政策の形成・変容過程(水田農業政策、土地改良区の運営問題、農業財政・予算)
外国農業(英国農村政策の形成過程、EU共通農業政策改革、逆都市化の国際比較、日中構造比較)
外国人農業労働者と移民制度(農業における資本賃労働関係成立の条件、国際労働力移動)


農業史研究室

 農業史研究室では、歴史的な視点から農業や農村社会の分析を行っています。この作業は、一方では、現状分析が対象としている農業・農村問題が歴史的にどのように形成・再編されてきたのかを跡付けることによって、現在の農業問題の歴史的な背景を探り当てることを課題とします。そして、他方では、かつて農村に生きた人々の生業や生活の実態を明らかにし、また人々の規範意識や農村社会の秩序原則を再構成することを通じて、現代社会との異同を確認することが課題となります。 逆説的ですが、農業史研究とは、私たちが生きている「現代」とは何であるのかを省察するための研究であるということができます。すなわち、農業史研究は、一人ひとりの研究者自身が無意識のうちに身につけている歴史意識をも対自化・相対化して捉えようとする試みでもあります。
 そのために、中近世から近近現代に至るまでの長期的な視点を重視しています。そして、比較分析の手法を用いて日本、朝鮮、インドなどいくつかの地域を分析対象としています。さらに、環境史や食生活史などの関連分野との学術的交流も心がけています。 都市化・産業化した現代社会において、農業・農村を歴史的な視点から研究することの意義は深く大きいと考えます。 農業史研究においては、経済学を基礎としつつも、社会学・政治学・法律学などの他の社会科学分野および歴史学・人類学などの人文科学分野から、さまざまな分析手法を取り入れて対象に接近しようと試みている点が方法論上の特徴となっています。ゼミナールの参加者も、農業史研究室や農経専攻の院生だけでなく、他研究科や他大学の院生・研究者も含まれています。
 テキスト講読のゼミでは、日本にとどまらずさまざまな地域の歴史研究を講読しています。参加者同士が互いに討論を交わすことによって、幅広い視点や方法論に接することを目標としています。論文報告ゼミでは、他研究科・他大学からの参加者も含めて、それぞれの研究成果や課題を報告します。その報告を素材にして討論をすることによって、各自の問題意識や分析手法を相互に検討しあうことを課題としています。 ゼミ参加者一人ひとりの研究分野も対象とする時期・地域も多様です。2つのゼミを通じて、さまざまな分析視角や方法論に触れることによって、自分自身の研究課題を客観的に把握し、それを解決するための道筋を見出すきっかけとすることが課題となります。

研究テーマ
  • 日本の村落社会の通史的研究
    ・・・村落の形成過程、養子と村、百姓株式に関する研究
  • 近世・近代日本の環境史・村落史
    ・・・災害史、村落におけるリスク管理
  • 朝鮮近代農村史
    ・・・植民地権力と村落秩序、河川利用秩序の再編過程
  • 近現代沖縄農政史
    ・・・戦後アメリカ統治期の米穀政策
  • 日本とインドにおける農業生産のあり方と食生活の関係の歴史
  • 日本・朝鮮・インドの比較農村社会史

経済学研究室

 世界経済は相互依存の度合いを強め、あらゆる事象が共有され互いに影響しあっています。ひとつの経済現象を分析するにも、経済理論はもちろんのこと背後にある相互関係やリンケージを念頭におく必要があります。経済学研究室では様々な経済現象とその変化を理論と実証で明らかにしていくことを研究課題としています。農業はもちろんですが、幅広く研究テーマを設定しそれぞれの学生・研究者が相互に議論する環境を大事にしています。特定の研究分野に閉じこもることなく、全ての経済現象は相互に関わり合っているという認識の下で、学生・研究者がそれぞれの研究に対して互いに助言・コメントをすることを重視しています。
 特に本研究室では開発経済や経済発展の問題を大きな研究課題のひとつとしていますが、そこではミクロ的視点とマクロ的視点の双方からのアプローチが必要であり、一方であらゆる切り口が可能です。また、ある時期の分析手法やアプローチが用をなさなくなることもしばしばです。従って、長期にこうした問題に取り組むためには、しっかりした学問的基礎の上に幅広い知識とそれらに裏打ちされた自由な発想が重要になってきます。
 具体的な研究課題としては、一国内における農村・農業部門と経済発展との関係、異なる発展段階における諸国間の国際的な相互依存関係、農業における労働と土地の調整問題、農業貿易の構造と政策などですが、ミクロ的視点とマクロ 的視点の両方を組み合わせ、また現実問題を常に念頭において実証的に分析しています。特に、開発経済学や国際経済学などの考え方を用いて、開発政策や貿易政策が経済発展に及ぼす経済効果を、数量的に解明することなどに取り組んでいます。さらには、昨今問題になっている世界の穀物価格の変動や、バイオ燃料需要増に伴う農業貿易の変化、TPPおよびFTAと農業問題なども研究対象としています。
 学生の研究テーマは自由であり、経済学的分析を行うのであれば、ミクロ・マクロ、日本・海外、途上国・先進国、いずれも問いません。研究テーマの選択はそれ自体が研究の一環をなしており、問題発見能力を身につけ何がどのように重要であるかを認識するためには、多くの学習と研鑽が必要です。
 そのためにはまず、ミクロ経済学、マクロ経済学、そして計量経済学の手法に熟知しマスターすることが求められます。本専攻だけでなく、経済学研究科のプログラムの活用も薦めます。ゼミは講義・テキスト形式のものと、多くの論文・文献と格闘して研究テーマを選定・追求していくためのものがあります。後者では、事前に発表論文とその関連文献を読んでおき、その研究が当該分野でどのような貢献をしているのか評価するだけでなく、批判的に検討しどこに改善の余地があるか、などを全員で検討します。こうした作業を経て自分の研究テーマに取り組んでいきます。研究テーマの選択に関しては何の制限もありません。

研究テーマ
  • 農産物貿易政策の展開と経済厚生の変化
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  • 発展途上国における教育、健康、災害等の家計に与える影響
  • 戦後日本における過剰就業の動学的調整過程の分析
  • 日本の農林水産物輸出の実証分析―グラビティモデル・アプローチ―
  • 農産物貿易パターン決定の諸要因-東アジア貿易を中心に-
  • 安定的な食料輸入を確保するための諸方策
  • 日本の稲作の生産不確実性の数量経済分析

食料・資源経済学研究室

 農業には大きな2つの役割があります。1つは私たちが生きていくために欠かすことのできない食料を生産すること。もう1つは私たちが快適に暮らす基礎となる水や土地などの環境と資源を管理することです。農業はGDPで測り尽くせない価値を私たちにもたらしているのです。
 食料・資源経済学研究室は、この農業の役割に注目し続けながら、近代経済学の理論と手法をベースに、日本と世界の農業・食料問題から環境・資源問題までをカバーする幅広い研究・教育を行っています。さまざまな顔をもつ現代の農業問題を考えることで私たちのウェイ・オブ・ライフの姿を描いていきたい。研究室のモットーはwarm heart and cool headです。
 当研究室は食料経済と資源経済の2つの研究チームから構成されています。所属する大学院生は自らの問題意識・研究上の関心に応じて、どちらかのチームを中心に研究活動を進めています。食料経済チーム(通称:フード系)はフードシステムと食の安全に関連した問題、資源経済チーム(通称:資源系)は土地・水をはじめとする資源・環境に関連した問題を研究しています。いずれも制度、組織、政策の評価分析に焦点を当てた研究が多くなっています。具体的にはこれまで研究室メンバーが関係してきた以下の「研究テーマ」を参照してください。農業・食料を経済システムとしてみた場合に、前者はそのシステムの川下セクター、後者は川上セクターに注目した研究分野となります。言うまでもなくどちらのセクターでも農業は切り離して議論することはできませんので、両者とも農業を研究対象としています。研究室の院生はもちろんそれぞれの専門に集中して研究を進めていますが、常にチームを越えた活発な議論、情報交換を行っていて、農業・食料・農村問題を幅広く理解する機会を得ています。このような川上・川下からの研究を統合することは、現代の農業を深く理解する上で、そして特に政策を評価・デザインする上で極めて有効です。 実証分析にあたってはまず現場で起こっていることをベースに考えていくという研究室の方針から、どちらのチームでも院生はフィールド調査を行うことが多いのですが、ただし理論・実態・統計のバランスがとれた研究を進めるよう心掛けてもらっています。

研究テーマ
  • 新しい食料・農業・農村政策のデザイン
  • 食品安全制度の経済分析
  • 酪農部門におけるコントラクター活動に関する研究
  • 農産物流通とトレーサビリティの役割
  • 砂糖のフードシステムと地域経済
  • 水利システムのサービス科学研究
  • 農業用水システムの国民的利用・維持管理の変遷と制度的課題
  • 中国雲南省棚田地帯の地理情報システム(GIS)を利用した空間経済分析
  • 食の信頼回復のためのフード・コミュニケーション・プロジェクトの経済評価
  • 産直と直売に関するオルタナティブフードシステム研究

農村開発金融研究室

 農村開発金融は、農村開発と農村金融という2つの言葉を合わせたものです。農村開発とは、発展途上国の農村の経済発展を通じて農村家計の所得向上や生活改善を目的とします。その学術的研究は所得向上や生活改善のメカニズムや制約要因、支援策を解明し、政策立案に資することが課題となります。開発のためには資金が必要です。そのため、農村金融に関する研究は、農村開発の研究に不可分のものになります。 農村開発金融の研究にあたって基礎となるのは経済学であり、分析手法としては、統計学や計量経済学です。この点は、農業・資源経済学専攻の他の研究室とも共通しています。
 ところで、農村開発というと、途上国政府や国際援助機関、NGOなど外部者の介入によるものに聞こえますが、そうではありません。農村住民自身や農民組織による自発的活動も農村開発に含みます。開発援助に限定しないことから、農村開発の研究の対象は、現在の発展途上国だけでなく日本や欧米が発展途上にあった時代にまで拡張します。農村金融についても同様で、銀行や信用組合、NGOなどの提供するフォーマルな金融手段(貯蓄、信用、保険、年金等)だけでなく、農村住民自身によるインフォーマルな金融手段(講、貸借、贈与等)を含みます。農村開発金融をこのように定義した時、研究の課題については、農村家計の生活水準(所得や消費、健康)に影響を与えるような技術、制度、資源(例:農業生産技術、灌漑・道路・通信等のインフラ、農民組織、マイクロファイナンス、天候保険、森林資源、人的資源、教育制度)となります。
 農村におけるこうした研究課題を考察する際には、現場からの発想が決定的に重要です。私どもはフィールドワークを研究の素材を提供してくれる格好の場所と位置づけており、大学院生が多くのフィールドワークを経験できるよう、またそこから優れた論文が生まれるよう援助を惜しみません。私どもの研究室で学びたいという学生の皆さんを歓迎いたします。

研究テーマ
    農業生産リスク
  • 半乾燥熱帯における農業生産リスクと貧困
  • 途上国におけるインデックス保険の可能性
  • 農業生産ショックと農民の健康状態
    農産物市場の効率性
  • サブサハラ・アフリカにおける農産物市場の効率性
  • アフリカ、アジア、日本のコメ市場の比較発展論
    農業技術の普及
  • サブサハラ・アフリカの稲作技術普及と貧困削減
  • サブサハラ・アフリカにおける緑の革命の評価
    農村資源管理
  • インドやセネガルにおける灌漑管理組織の効果
  • ネパール、インドの住民参加型森林資源管理
    農村組織
  • 日本の農業金融や農協に関する課題と今後の方向
  • アジア諸国や先進国における農協の評価